「これからの働き方とリーダーシップ」セミナーレポート COMEMO Business Night Out Vol.3
公開日:2017/12/05 更新日:2019/10/10昨日、日経新聞社の新規事業「COMEMO」運営事務局主催の「これからの働き方とリーダーシップ」というセミナーに参加してきた。
シリコンバレーのヤマハでCEOをされている西城洋志さんと、元Googleのピョートルさんが登壇されるということで、新規事業絡めた話からの、未来に向けてどうあるべきか、みたいな話が広く聞けて見識が広がるのでは、という思惑で参加してきた。
結論としては、前者の新規事業のネタが中心なんだけど、そこを踏まえて「会社はどうあるべきか」、「マネージャー、リーダーは人を見るべき」など、組織、個人で本質的に大事にすべきことに触れていて、めちゃくちゃ面白かった。ひたすら納得、みたいな。触発されることが多かったので、簡単にまとめてみる。
イベント内容
いま、スタートアップのみならず大企業まで、企業には働き手の生産性を高めつつ、新たなイノベーションを生み出すことが求められています。「COMEMO Business Night Out 働き方の未来」の第3弾では、ビジネスの最前線に身を置く2人の実践者を招き、イノベーションを生み出すための「これからの働き方とリーダーシップ」について議論します。
登壇者は、シリコンバレーを拠点にヤマハ発動機の新規事業開発チームを率いる西城洋志さんと、グーグル時代に人材育成や組織開発、リーダーシップ開発に取り組んできたピョートル・フェリクス・グジバチさんのお2人です。シリコンバレーのスタートアップ事情や、大企業における新規事業開発、グーグルの組織・個人に精通した2人が、これからの時代に求められる働き方を参加者の皆さんとともに探っていきます。
新規事業や新たなチャレンジに挑んでいるビジネスパーソン、チームの力を引き出したいリーダーや人事担当の方、会社の中でモヤモヤしていないで一緒に議論しましょう!
「COMEMO Business Night Out」は、ビジネスパーソンが知見をシェアするプラットフォーム「COMEMO」のユーザーが議論し、交流する場です。参加者の皆さんからの積極的なご意見・ご質問をお待ちしています。イベント後半にはネットワーキングの時間を設けます。
登壇者
ヤマハ・モーター・ベンチャーズ・アンド・ラボラトリー・シリコンバレーCEO 西城洋志 氏
プロノイアグループ/モティファイ株式会社 代表取締役 ピョートル・フェリクス・グジバチ 氏
ファシリテーター
アソビシステム株式会社エグゼクティブ・プロデューサー 稲着達也 氏
セミナー内容
日本の「働き方改革」について
西城氏 ヤマハ発動機では元々、産業ロボットを作ってたので異色だったが、ヤマハには多様性を許す、寛容な文化があった。 今はシリコンバレーで第三のヤマハを作る気概でやっている。 大手企業というよりは事業が成熟した企業という言い方が適切だと感じる。成熟企業は最適化が進んでいるため、働き方改革はやりにくくなるというのは事実あると思う。
ピョートル氏 今日の話は日本が大好きだからこその愛のムチと捉えてほしい。
日本の働き方改革は間違っている。なぜならGoogle、Facebookに「働き方改革委員会」なんてものはない。それよりも日本の企業は、企業(組織)単位では『経営の改革』、個人単位では『生き方改革』をしなくてはいけない。 それは仕事をすることで何を得たいか、企業や個人のビジョンやミッションを定めること。仕事を通して、どう自己実現していくか、という話。
西城氏 「働き方改革」って言葉は個人的に大嫌い。働き方をどうしたいのか、よくわからない。
働き方がどうあるべきかは、事業の目的次第だと捉えている。 事業の目的が新しい、イノベーティブなものであれば、多様性をとるべき。 たとえば、トヨタが本当にイノベーティブになったらどうなるか?ベータ版がそこら辺を走ってたら事業としてまずい。「カイゼン」という方向性の中では、ある程度決まったことをする、というのは問題ではない。
そこで大事になるのが、Googleが発表していた『サイコロジカルセーフティー(心理的安全)』という考え方。 生産性が上がって人が成長すれば、その中からいいアイデアが生まれるかもしれない。 テスラもイノベーティブに見えるかもしれないが、本当にイノベーティブなのは一部だけで、残りは決まったことをやっている。
ピョートル氏 Googleは40%が正社員。同じことは自動化しよう、という思想で働いている。 会社というのは価値を生むための「仕組み」。 経営が「どういう価値を生むか」を考えて、そこからそのために必要なツール、環境などを整理していくべき。だが、実態は人事に丸投げして、人事では人事制度を見直す、というおかしな方向になってしまう。組織内で分断されている点が間違っていると思う。
働き方とイノベーション
西城氏 日経をはじめとする日本のメディアはよく書きすぎているが、シリコンバレーは失敗を賞賛するわけではない。挑戦し、失敗によって学んだことを賞賛する文化。
たとえば、UBERがないことがなぜ革新的でないのか? サンフランシスコと日本ではまったく環境が異なる。サンフランシスコはタクシーがなくてつかまらない、料金が高い、運転手がガラ悪い。日本ではタクシーいっぱいいるし、すぐつかまる。日本では不要。 「D-Lab」(※)ではシリコンバレーのそういった真実の姿を、いい面悪い面含め伝えていこうとしている。
※シリコンバレーD-Labプロジェクト D-Labプロジェクトは、シリコンバレーで自動車業界に起きている変化を日本に伝えるシリコンバレー在住の日本人による有志活動として生まれたプロジェクト。
僕は共有経済ってサステナブルではないのではないか、と思い始めている。 UBERのドライバーはLyftでも働ける。つまり、ドライバーが相見積りを取ることができる。選択権がユーザーにある。そうなると、ユーザーにパワーシフトしていき、サービサーのランニングコストがかさむ。 そういったフィーチャーされている裏、本質を見るべき。
ピョートル氏 日系企業はコミュニケーション、マネージメントが圧倒的に足りていない。 会社のいいところをほとんど話さない。日本には歴史ある企業が多い。ちゃんとした顧客、サービス、歴史もあって、給料をもらってるのに居酒屋入ると、グチしか言わない。もっと感謝すべき。 自分の会社のいいところを探して、言語化していかないと、ここがすごいと外に言えない。それが言えれば、世界でも戦える。 世界で強いところはマーケティングが強い。ただ、それが後付けになってしまってはよくない。
これからの働き方とリーダーシップ
西城氏 資産を気にするから、リスクを感じる。 日系企業はビジョンはないけど、ミッションはある。結果的に近視眼的になる。ただ、それは<良い/悪い>ではない。そういう特性がある、という話。
僕はよく『世界をカラフルにする』と言っている。 自社のカラーを言えるか。<良い/悪い>ではなく、<好き/嫌い>でいい。
シリコンバレーで働いていて、くやしい思いもするが、ありがたいと思うことがある。 アップルのリーガル部門と商談したときに、理不尽な内容だったりして、大変な思いをした。そのときは苦しいが、ギリギリでやっているので能力が伸びる。それを踏まえると、大事なのは「働き方」じゃなくてやっぱり「人」なんじゃないか。
従業員の時間はタダだと日系企業は思ってる。シリコンバレーに日本から人が来たら平気で迎えに来させようとする。UBERなら$20ぐらいで済む話で、自分が動いたら効率が悪い。それを言わないと気づかないぐらい感覚が麻痺している。
僕はリーダーだからこそ一番無駄なこと、イノベーティブじゃないことをすべきだと思う。 チームの力を最大化するのがマネージャーやリーダー。マネージャーは既存事業、部下は新規事業みたいなもの。彼らは伸び代しかない。そんな彼らの時間を使ってまで、自分の時間を増やそうと思わない。
新しい価値観、センサーを生む機会は彼らから生まれる。彼らにこそ時間を使うべき。これは彼らに対するジェラシーでもある。
ピョートル氏 若い人たちの方が知っている。「オレは上司だ」というのは効果的でない。 LINEの浸透も若い人から始まっている。リスペクトしないといけない。
日系企業は人を見ることがない、と感じる。 Googleではマネージャーが部下を人として見てるかで評価が決まる。部下が自己実現をするための手助けをしたかどうかを見ている。
西城氏 (ピョートルさんの話を受けて)そこには「会社」という偶像崇拝みたいなものがあるのではないか。人の時間を使って、会社を強くする、という傾向があるが、会社を強くしたかったら人を強くするべき。
チャレンジした結果の失敗だと成長の機会を得られる。 有名な話でビルゲイツはエコノミーに乗る話がある。理由は「ビジネスクラスに乗っても早く着かないから」。これは時間を大事にするエピソードとして象徴的。
本質に根ざした会社、ルールがないのがベストだと思う。
お互いに質問を
ピョートル氏 日系企業の良さは?
西城氏 継続する、我慢強い、そういった特性が強い。もちろん、それには良い面、悪い面がある。
日本のスタートアップをどう見てる?
ピョートル氏 マクロで見ると起業家の数が少なすぎる。起業家活動率が低い。 経産省の統計では、7割がスタートアップに違和感があると回答している。親にも不安定だから大手企業を勧められるなど。
ミクロで見ると世界初というモデルがほぼない。ほとんどエアビーなどシリコンバレーの真似になっている。ファーストペンギンが足りない。 その根底には、これをやれば儲けになる、という考えでやってることがある。 たとえばGoogleに似た、きれいなオフィス環境を用意して社長がいろいろ言っているが、社員の目は死んでる、みたいなケースが多い。
西城氏 日本て、起業家が必要なのか? 企業内起業家こそが日本に合ってる、というのが持論。
ピョートル氏 孫さんが今までやってきたことが間違いだったと認めて、サウジにファンド作ったり、より大きなビジョンを持って仕事に取り組み出した。そういう起業家が日本にはもっと必要。 あと、地方にもっと貢献すべき。
いい投資家は事業計画ではなく、人に投資する。お金だけじゃなく、人も、環境もすべてを投資する。
西城氏 シリコンバレーにいて、決定的に違うと思ったのは、ディスカッションの仕方。 日本はゼロサムゲームで、自分の案は最後まで出さない。いかにテーブルの中から取ってやるか、という考え方。 シリコンバレーは全部出す。10あったら、それをいかに20にして帰るか、という考え方。
日系企業の場合は、「小さい会社=下請け」として見ることが多い。アクセラレータープログラムもよく見ると、注釈に事業アイデアは自分たちのものにする、と書いていたり、ひどいものもある。
ピョートル氏 BtoB、BtoCじゃなく、BwithB、BwithCにした方がいい。パートナーであるべきで、自分たちより小さい規模ですごいことをやっているのだから、リスペクトすべき。
質疑応答
Q:決断するのがリーダーの仕事だと思うが、そのためにはいい環境が必要では?
西城氏 最適でない条件でもいい決断ができるのが「良いリーダー」。 そのためには、現場を知る必要がある。
ピョートル氏 決断のための情報をいかに現場から集めるか。 そのためには、社長室も大きい必要はない。Googleはご飯も社員と同じものを食べ、移動も社長車じゃなくて、タクシー。それで十分。 日系企業で驚いたのが、「社長の顔を知らない」という人がいること。自分のリーダーを知らない、なんておかしい。
二人のビジョン
西城氏 ビジョンは1日24時間を楽しむこと。ただそれだけではなくて、楽しみながら価値を生み出す。 『世界をカラフルにしたい』。今までになかった価値を生んでいきたい。
ピョートル氏 誰でも自己実現できる世界が見たい。 Googleにいたが、その世界を築くには時間がかかる。だから、独立した。
独立すると自分のスピードを調整できる。誰と会うか、合わなければ方向転換も自在。 また、作れる人脈の質が変わる。成功している人はビジョンとミッションがしっかりしている。自分のエネルギーと合う人と働くことが自分の意思でできる。 新しいものを生む、常にギブをする。
所感
最初からメモを取る手が止まらないほど、刺激的な内容、本質を突いた金言のオンパレードだった。
「人を見たマネージメントをしよう」
「企業が提供したい価値は何か。そこから経営を考えよう」
「日本の企業は自分たちを卑下しすぎ。いい面を見れば、世界とも戦える。」
「部下は可能性の塊。彼らの時間をいかに捻出するかが会社を強くするキー。もっとリスペクトしよう」
規模の大小ではなく、フラットにパートナーとして捉え、いっしょに世の中の課題を解決していき、みんなで新たな価値を生んでいく。より複雑化していく課題を解決するには、そんなマインドセットが必要なんだと感じた。
中でもしびれたのは、本当の意味での「人間中心」の働き方、世界を目指していたところ。社員も上司に「あなたが大事なんだよ」と言われたり、感じることができたら、その人はきっともっと力を発揮できるのではないか。そういう気持ちやアクションが世の中をちょっとずつ良くしていくのではないか。セミナーが終わって、そんな『希望』が持てた気がした。
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