【まとめ】ラグビーW杯2019 日本大会があまりにドラマチックだったのでまとめてみた
公開日:2019/10/22 更新日:2020/02/13華やかに、煌びやかに見えるものほどその陰には人知れぬ苦労や努力、涙がある。
ラグビー日本代表が史上初の決勝トーナメントに出場し、南アフリカと対戦して3-26で敗退。ジャイアントキリングが起きにくいと言われるラグビーで史上初のベスト8。本当に素晴らしかった。
ラグビーは明治大学時代に応援には行ったもののあまり詳しくなく、今回の大会でいわゆる「にわか」になった。
そんな「にわか」から見ても今回の功績は「ワールドカップの歴史」「ダイバーシティ」「1人の夢から始まった大会招致」「日本代表のブランディング」「台風の中での開催決行」などいろいろなドラマが幾重にも重なって成し遂げられたものだった。
とても感慨深く、心動かされたのでそのエピソードをまとめてみた。
目次【記事の内容】
- ラグビー日本代表 ワールドカップでの歴史
- ラグビー日本代表に見るダイバーシティ
- 夢の「ラグビーワールドカップ日本開催」へ。託されたパス
- プライオリティが低かったラグビー日本代表のブランド
- 18年にわたりラグビー界、日本代表をサポートしてきた大正製薬
- 大一番の対スコットランド戦。大型台風19号到来
1. ラグビー日本代表 ワールドカップでの歴史
ラグビー日本代表は今まで「24年間W杯で勝利なし」「世界にプロ化で遅れる」と弱く、世界に対して遅れを取ってきた。W杯で勝てるようになってきたのは、2015年からと実は最近の話。
- 1987年に第1回が開催。日本はこのときから出場。
- 日本のワールドカップ初勝利は1991年第2回の対ジンバブエ戦でスコアは52-8。しかしそれ以降、24年間ワールドカップで勝利なし。
- 1995年第3回ラグビーワールドカップ(南アフリカ)が開催。世界的にアマチュアリズムが廃止、プロ化へ。日本はアマチュアリズムのままでプロ化に遅れる。
- 第3回の対戦成績は対ウェールズ戦10−57。対アイルランド戦28−50。対ニュージーランド戦では17−145と歴史的大敗。
- 1999年の第4回ではレジェンド平尾誠二が監督に就任。外国人選手を積極的に起用するも3戦全敗。
- 世界から遅れること6年。2001年に日本もプロ化へ。
- 2015年第8回が開催。初戦で優勝候補の南アフリカと対戦し、34-32で歴史的勝利。「スポーツ史上最大の番狂わせ(ジャイアントキリング)」と謳われる。対スコットランド戦は10-45で敗戦するも、対サモア戦では26-5、対アメリカ戦では28-18とグループリーグ初の3勝をあげる。3勝して決勝トーナメントに出場できなかったのは史上初めて。
- 2019年第9回ワールドカップが初めて日本で開催。史上初の決勝トーナメント進出、ベスト8を達成。
なお、南アフリカ戦の10/20(日)は奇しくも元代表監督の平尾誠二さんの命日でもあった。
【参考】
日本ラグビーフットボール協会 日本ラグビー デジタルミュージアム
ラグビーHack
2. ラグビー日本代表に見るダイバーシティ
今回ラグビー日本代表を見ていて思ったのが外国人の多さ。
今大会だと31人中15人が外国人で、7人が日本に帰化していない。
元はラグビー発祥の地であるイングランドが、19世紀初頭に各国を植民地化していったのがルーツ。だから各地域ごとに発展し、国籍よりも住んでいる国や地域の協会を重視するようになったそう。
そして外国人選手を起用しているのは日本だけでないこともわかった。
現在のルールでは以下の3つのうちどれか1つでも条件を満たせば、自分の国籍とは違う国の代表になれる。
- 出生地がその国
- 両親、祖父母のうち1人がその国出身
- その国で3年以上、継続して居住。または通算10年にわたり居住
そしてさらに興味深かったのが2000年に改正された「一度外国の代表になると、自国の代表にはなれない」というルール。
自分がその国の代表になるには、自国の代表の道を捨てなければならない。
当初疑問に思っていた外国人の多さも、そのルールを知ってから見方が変わった。
国歌斉唱や日本のために必死に全力を尽くすその姿勢、そして昨日行われた大会後の会見を見ても、本当に日本人として戦っているのが伝わるし、もはや国籍なんか関係ないとさえ感じる。誇らしく、日本を選んでくれたことに感謝したい。
これから日本はいかにダイバーシティの概念を受け入れていくか。
日本が抱える1つの大きな問題だが、最近のスポーツ界を見ているとテニスの大坂なおみ選手、バスケの八村塁選手らハーフの人たちが、日本人だけでは超えられない壁を乗り越えている。
今回のラグビー日本代表の活躍は、日本の組織や社会の目指すべき方向性のきっかけをある種提示していたようにも思える。
【参考】
ラグビー日本代表は、なぜ31人中15人が外国人選手なのか?スポーツと国籍問題を考える
3. 夢の「ラグビーワールドカップ日本開催」へ。託されたパス
今回の日本開催には、みんなが知らない物語があった。
簡単にまとめると
- 外務省に早稲田大学ラグビー部OBの奥克彦さんの「日本でワールドカップを開催したい」という夢からすべては始まった。森元首相も同大ラグビー部OBで同じ夢を抱いていた。
- 2003年イラクで奥さんが銃弾に倒れ、森元首相が夢のパスを受け継ぐことに。
- 開催国はラグビー伝統国が有利で、日本は世界にラグビー友達がいなかったため、情勢は不利。
- 2011年ワールドカップの招致はニュージーランドとの一騎打ちで最後に涙を吞む。
- 森元首相は数年に渡る職員の努力を思い、ワールドラグビーのトップ、シド・ミラー会長に「あなたたちは、いつまで仲間うちでパスを回しているんだ!」と激昂。
- アジアラグビー理事会で招致失敗報告をすると「ここでやめないでくれ。アジアのためにも、日本がリーダーになって、どうかもう一度挑戦してほしい。アジアみんなで応援するから」と応援される。
- 7人制ラグビーをオリンピック競技にするために、ラグビー界が新しい挑戦をしなければいけない風潮になったことも後押しし、2019年の日本開催が決定。
- 最後まで競った南アフリカはそれでもあきらめず、国立競技場改修の遅延を理由に白紙撤回を求める。
- その空気を吹き飛ばしたのが2015年の南アフリカ戦の勝利だった。南アフリカとしては勝って、自国開催を主張する算段だった。その騒音を一切なくした。
1人の夢がいろいろな人につながり、やがて大きなうねりとなって事を成し遂げたのだった。
4. プライオリティが低かったラグビー日本代表のブランド
日本でラグビーと言えば早慶戦や早明戦といった大学ラグビーか、神戸製鋼などの社会人ラグビーだ。
以下の記事を見ると、2011年大会までW杯通算戦績が1勝21敗2分けだった日本代表は「意識改革」に取り組んだよう。
エディジャパン時のキャプテンだった廣瀬俊朗さんは以下のように設定した。
課題:日本代表に対する愛着の低さ
解決策:選手と日本代表をつなぐ仕組みを導入
ゴール:憧れの存在になる
信じられないが、アマチュア時代の日本代表は無報酬。代表入りを辞退したり、パフォーマンスをあえて落とす選手もいた。
解決策の具体的な仕組みは以下。
- 海外遠征で使用したロッカールームは立ち去る前に自分たちで清掃する。
- 子どもたちからサインを求められたらできるだけ丁寧に書いて「ありがとう」と声をかける。
2015年W杯イングランド大会初戦前夜には、廣瀬さんの計らいで日本のトップリーグ全チームから応援のビデオメッセージを届けてもらった。
そこには2つの意味があった。
- 日本代表メンバーたちに、日本で戦ってきたトップリーグの選手たちが応援しているとを実感してもらうこと。
- 日本に残るトップリーグの選手たちに、自分たちの代表だと感じてもらうこと。
その翌日の南アフリカ戦では奇跡の大逆転勝利を収める。
企業活動でいうところのブランディングだ。
課題抽出・設定、解決策の施策立案・実施、ゴール設定をして、PDCAを回していく。
きっともっといろいろな失敗などがあっただろうが、外国人起用だけでなく、こういったマインドセットや想いの共有・意識統一なども今回成功を収めたうちの大きな要因だったのだろう。
5. 18年にわたりラグビー界、日本代表をサポートしてきた大正製薬
スポーツが発展するにはスポンサー企業も重要だ。
今回は大会中「ROCKET NEWS 24」が黎明期から18年もラグビー日本代表をスポンサードしてきた大正製薬にその想いや背景をインタビューしている。
この記事を読むまであまりスポンサーまで意識していなかったが、「”紳商”という企業の精神がラグビーと通ずるところがある」「ラグビーは日本人に向いている」「やるなら長期的な視点でやる」と強い覚悟と先見性を持ってスポンサーを引き受けたのが胸を熱くさせる。
6. 大一番の対スコットランド戦。大型台風19号到来
翌日にスコットランド戦を控えた10/12。日本に大型台風19号が到来する。
死者も、行方不明者もいてその正確な人数もわからない中、試合は実施へ。
その背景には、会場である日産スタジアムが貯水設備の上に立っていて被害が少なかったこと、組織委員の人たちが前日から泊まり込み、朝方から掃除などの対応が迅速にできたことなど様々な要因があった。
試合前には台風で亡くなられた方へ黙祷が捧げられた。こんなときにスポーツをやっている場合じゃない、という声もあるだろうが、委員会幹部は「世界に向けて、自分たちはできると言うことを証明したい」と語ったようだ。
このような状況でも開催に踏み切ったのは、今までの歴史や組織委員会の日本開催への血のにじむような努力や想い、そして日本としての矜持があったからではないか。
英紙ガーディアンの記者が日本対スコットランド戦の試合だけでなく、スタッフや環境面などまで網羅した、素晴らしい記事を書いていた。その翻訳もSNSでバズっていた。
台風の被害に合った岩手県釜石市では、カナダ代表が復興支援のボランティア活動に参加してくれていた。日本以外の代表の人も協力してくれ、大会参加国みんなで作り上げていったように思える。
Following the cancellation of their match in Kamaishi, @RugbyCanada players headed out to help with recovery efforts, showing the true values of the game.
Amazing scenes and brilliant to see from the team. #RWC2019 pic.twitter.com/jdXQlyD2ZM— Rugby World Cup (@rugbyworldcup) October 13, 2019
まとめ
30年以上の歴史、1人の夢、多くの人の想い、そしてあらゆるタイミング。それらが絶妙に重なり、今回の功績につながったのだ。
なんという壮大なドラマだろう。
きっとここで紹介したことも一部にしか過ぎなくて、もっと前から、もっと多くの人がさまざまな想いを持って関わっていたと思う。
過去から現在までラグビーに関わるすべての人が積み重ねてきたもの、想いが結集して、今回の大会開催や日本代表の躍進につながったと思うとこみ上げるものがある。
今回の南アフリカ戦では素人目に見ても、日本代表は厳しい戦いでまだ世界と差があるのだと痛感した。
ただ、一方でジャイアントキリングが起きにくいと言われている中でこれだけの結果を出してきたのだから、世界に近づいていることもまた事実。
プロリーグ化、報酬などラグビー業界として取り組むべき課題はたくさんあるだろうが、これから良くなる可能性しかないと思えば希望が生まれる。
このような歴史的瞬間を目の当たりにできたことは本当に幸運。
監督、選手、関係者の皆さま、たくさんの「にわか」を生んでくれて、いろいろな学びをくれてありがとうございました。ここから芽が育っていくのだと思います。
本当にお疲れ様でした。
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