【企画構想学舎】高松聡氏の企画構想とgoo、スカパー、日清の広告事例
公開日:2012/04/03 更新日:2019/11/152010年10月に「東京企画構想学舎」という社会人スクールが設立された。
これは小山薫堂さんを学長に、東北芸術工科大学とオレンジ・アンド・パートナーズが設立した学校だ。国内外の第一線で活躍する「しかけ人」たちを講師に、クリエイティブセンスとビジネスセンスを兼ね備えた企画者の輩出を目指している。
私はこのスクールの映像配信を受講しているのだが、今回は高松聡さんの講義(高松聡学科)。
「パブリックビューイング」を日本で広めたり、日清のCM「FREEDOM」なども手がけた人。
与えられた条件の中で最大限の効果を生むためにどんな企画を考え、どうやって実現させたか、などの作り方のプロセスが興味深かったのでまとめてみる。
目次【記事の内容】
- 高松聡氏 プロフィール
- 「企画構想」とは
- 事例1:goo渋谷キャンペーン(広告主:goo)
- 事例2:教えてgoo!キャンペーン(広告主:goo)
- 事例3:パブリックビューイング(広告主:スカパー)
- 事例4:NO BORDER(広告主:日清)
- 事例5:FREEDOM(広告主:日清)
- 事例6:OLYMPUSカメラ(広告主:オリンパス)
プロフィール
高松聡氏
GROUND代表/チーフ・クリエイティブディレクター
電通の営業→クリエイティブに異動→独立というステップを踏んできたが、自分の仕事が「電通」の業務領域である通常のキャンペーンやイベントの枠を超えてしまったため、独立を考えた。
電通時代に宇宙撮影の会社を立ち上げたり、電通社長の自分への注意メールをそのまま広告に使ったり、とややもすると少し危ない仕事をしてきた、異色な方。
「企画構想」とは
- 企画→あることを行うために計画を立てること。また、その計画。企て。
- 構想→これからしようとする物事について、その内容、規模、実現方法などを考えて、骨組みをまとめること。
企画構想=企画し、実現方法を考え、そして実現すること。
【具体例】アポロ計画
1960年 企画開始
1969年 構想9年にして実現
ケネディのスピーチ
まず私は、今後10年以内に人間を月に着陸させ、安全に地球に帰還させるという目標の達成に我が国民が取り組むべきと確信しています。
この期間のこの宇宙プロジェクト以上に、より強い印象を人類に残すものは存在せず、長きにわたる宇宙探査史においてより重要となるものも存在しないことでしょう。
そして、このプロジェクト以上に完遂に困難を伴い費用を要するものもないでしょう。
我々が10年以内に月に行こうなどと決めたのは、それが容易だからではありません。
むしろ困難だからです。この目標が、我々のもつ行動力や技術の最善といえるものを集結し、それがどれほどのものかを知るのに役立つこととなるからです。
その挑戦こそ、我々が受けて立つことを望み、先延ばしすることを望まないものだからです。
そして、これこそが、我々が勝ち取ろうと志すものであり、我々以外にとってもそうだからです。
Wikipedia アポロ計画
上記は、費用を支払う国民に対し
「夢を共有し、お金を払ってもいい、
簡単ではないと理解させ、かつ意義があるものだ」
と理解させたという点で、非常に優れたスピーチ。
あらためて「企画」とは
企画とは未来=今ないものをつくること であり、ほんの少し先の未来を見つけること。
いつか誰かが思いつき、実現することを「自分」が誰かよりも早く実現すること。考えるだけではダメ。
企画を立てるときは「人間が欲しい、面白い、驚く、感動することを “もう一つ” 見つける」こと。
実現には、見つけたことを説得する力、不安な人、やりたくない人を説得する技法が必要。
自分(高松氏)は「夢」という「魔法の言葉」をよく使う。
- 時代の転換点を感じとること
- 小さなことでも話題にすることはできる。
→予算=効果ではない(予算が大きいことはもちろんいい)
→メディアバイイングからトークバリューへ
→内輪受けからソーシャル受けへ
→地域受けからグローバル受けへ
→最大のスケールでの効果を狙う
事例1:goo渋谷キャンペーン(広告主:goo)
要件
gooの知名度を上げたい
施策
- gooに検索ワードランキングというのがあって、「1位Yahoo!」「2位 2ちゃん」だった。
ランキングの下にいくと、面白いものがあって、1万位ぐらいまでもらい、そのワードを使った「アウトドア広告=人メディア」キャンペーンを考えた。 - バイトを雇い、検索ワードの描いてあるセーターを着せて、そのワードにちなんだ場所を歩かせた。
費用
バイト代:5,000円/人 × 1,000人 = 500万円(+セーター代)
→新聞15段より安かった
結果
バイラルで広がり、NTTのニュースなどで取り上げられ、新聞15段打つより、広告価値を生むことができた。
事例2:教えてgoo!キャンペーン(広告主:goo)
要件
gooの知名度を上げたい
→92%の回答率でYahoo!より良く、優れたサービスだったので、これを軸としたキャンペーンにした。
施策
ターゲット=ネット社会に影響力を持つ人たち
ネットのヘビーユーザーは東京、大阪の大都市圏に住んでいて、電車を使っている人は90%以上。
最寄り、乗り換え、降車の3駅利用するとすると、
1週間5日 × 6(往復)=30回/週(接触頻度)
駅貼り広告を中心に(駅貼り広告2日間=TVスポットと同じ金額)。
600駅のポスターほとんど買って、見ざるを得ない状況を作った。
面白い質問を文字だけでバリエーションあったら、面白いんじゃないか?
「そういえば知らない質問」を3人のコピーライターで決める。
例)「ひょん」ってなに?
あくまで、ネット広告はやらず、スタート時には新聞広告を打った。
産經新聞なら労働法にちなんだ質問にするなど、出稿先によって出す質問を変えた。
他にも街頭ビジョンを使って、検索しないとわからないような質問をビジョンに出し、その場で検索して正解した人に100万円をプレゼントするキャンペーンを3回(陸、海、空)実施。
イベント会場に一斉に集めて、誰が検索早いかを決める検索王ランキング実施。
当時在籍していた電通の社長から、gooは「教えてgoo!」だけじゃないと長々とメールが来て、それをそのまま駅貼り広告にそのまま掲載した(めんどくさいから)。
「マイノリティが主張する力は説得力がある」との考えから、Yahoo!とgooどっちがいいか、討論掲示板というのもやった。
結果
海外でも広告賞グランプリを穫った。
CMは文化が違うからカンヌで金とかはむずかしいが、「企画が新しい目線か、面白いか」は世界共通で通じる。
事例3:パブリックビューイング(広告主:スカパー)
背景
- スカパーが160億を電通に払って、2002年W杯の全64試合放映権を買って、「スカパーに入ればW杯見放題キャンペーン」を計画。
- ところが、民放連がメジャー40試合の放映権を買った。
- スカパーが支払った160億が無駄になってしまうかもしれない。
- スカパーから電通に何とかしてくれ、日本の試合のときだけ、予算ゼロでアピールできる大企画を、と依頼があった。
高松氏自身がサッカーファンだったこともあり、憤りがあった。
「何万人という単位で見る機会なのに、TVを中継するだけ。
初めての日本での開催なのに、見に行けない人があまりにも多い。
ファンでない人もチケットが当たったら行けてしまう。
そもそも、なんで国立でやらないんだ!?」
→JFA(日本サッカー協会)がやらないならスカパーにやってもらう!
施策
- W杯中の国立を全部押さえた。
- チケット:2,500円/枚
- 警備:数千万/日
- 観客が7割以上入らないと赤字になる計算。
- 四谷警察に警備の依頼をしたが断られた。
- W杯のスタジアムがある横浜、埼玉に応援を出していたため。
- 警察としても、フーリガン(暴動を起こすファン)もいるし、初めてのW杯で警備をやりたくない。死者が出たら、許可出した人が出世できなくなってしまう。
- 警視庁もNG→警察庁もNG。
- 最後の手段で、自民党の某先生(W杯誘致委員会)に当たって、説得。
「日本でやるのに、東京にW杯が来ないんです。これが実現できれば、東京にW杯が来たことと同じ効果があり、サッカーファンは次の選挙で先生に投票します。」
→電通でも官公庁などの許可をとるのを誰もやってくれない。
- 最後の手段で、自民党の某先生(W杯誘致委員会)に当たって、説得。
- 初日は半分以上売れ残り、このままでは赤字になる。
- 切羽詰まっていたこともあり、ネットのサッカー掲示板で「雨降ったらどうするんだろうね?」と批判的な投稿をした。
→ポジティブな反応が返ってきた。
- 切羽詰まっていたこともあり、ネットのサッカー掲示板で「雨降ったらどうするんだろうね?」と批判的な投稿をした。
- ネガティブなことを書くと、ポジティブが返ってくる。
→IPを変えるため、ネットカフェを転々として、人格も変えて、あらゆるネガティブな可能性を投稿。
※TVでタダで見れるものを2,500円払って見るのはナンセンスだということはあらかじめわかっていたので、ネガティブな要素はすべてわかっていた。
結果
- 結果、満員に。
- 予算ゼロだったが、サッカーファンのおかげで達成することができた。
- 2、3試合目は90%余っていたが、1試合目翌日15分で完売。
- チケットはヤフオクで10倍に。
- 日本中でパブリックビューイングをやりたいという声が集まった。
- 特許を取って、電通に許可を取らないとパブリックビューイングはできないようにした。
- 以下条件を満たせば、許可した。
(条件)
・スカパーでやらないといけない。
・スカパーの看板を出さないといけない。
→スカパーに加入しないで、スカパーに接触してもらえた。
→日本代表戦に存在感がなくなるはずのスカパーが、サッカー日本代表を応援しているというアピールができた。
- アフリカW杯のときは記者席を開放して、twitterを使い、ハッシュタグつけてつぶやけば一般の人が記者になれた
事例4:NO BORDER(広告主:日清)
背景
日清の企業理念「食即世平」(食べ物が世界に行き渡れば世界は平和になる)
施策
- 日清社長に以下のようにプレゼン。
「食べ物に国境はありません。
2年で宇宙で食べられるカップヌードルを開発して、宇宙ステーションに届け、地球を見る宇宙飛行士を撮影します。
人類の平和を願うことだけをメッセージとした広告キャンペーンを実施しましょう(企業がやるのは異例)。」
=創業者 安藤百福の2大発明「チキンラーメン」「カップヌードル」に次ぐ、3つ目「宇宙で食べられるラーメン」を作る。
- 予算はあまりなかったため、JAXAの宇宙オープンラボ制度(返さなくてもいい資金出資制度)を利用。宇宙の撮影のために、SPACE FILMSという会社を作った。
(条件)
・報酬ゼロ
・交通費ゼロ
・接待費ゼロ
事例5:FREEDOM(広告主:日清)
背景
・2年の宇宙CP終了後、やりきった(MAX)感があり、平和をテーマにした販促キャンペーンはできない。
・放っておいても売れる40代以上への広告ではなく、10代後半くらいの人たちに自分たちの世代の商品のように見えるようにする、というミッションを設定。
施策
- 10代後半くらいの人たちが一番強い興味を持っているであろうアニメに着目。本格的なCMは日本でほとんどやっていないので、新しくもある。
- 「10~20代の自由」と日清の掲げる「食の自由」から、「FREEDOM」をコンセプトに。
- 予算はあまりなかったため、クライアントの予算の外で何ができるかを考えた。
→有料のエンタメ、無料の広告。 - CMのためにアニメは作れないので、DVDを作るのと同時にCMも作る。2年間で10本のCMを作った。
- 駅貼りポスターは最初下書きのものを掲載。
→映画かドラマかわからないようにして、期待感を煽った。 - 公式サイトではCM、DVDのトレイラーを掲載。
→謎を解くためにDVDを買う。 - 23世紀、自由を求めた、カップヌードルが好きな少年の話。
- Podcastingを使った初めての企画
- 若者の接するあらゆるメディアを使った。
結果
- カップヌードル ¥170
DVD ¥3990
フィギュアなどにキャラクター展開
サングラス
Tシャツ - 日清、DVD制作委員の双方にメリットがあった。
→日清:DVDシリーズを無料で作れた
→DVD制作委員:数十億円かかるCMを無料で打てた - キャラクターライツの収益
→クライアント、投資家、広告会社に分配 - 消費者とクライアントとのエンゲージメント
- 当時DVDの売上がハリーポッターより唯一FREEDOMより上位
事例6:OLYMPUSカメラ(広告主:オリンパス)
- 一眼レフのマーケットシェア0.7% → 7%にする目標
- 車、カメラはカタログが一番重要
- カメラは男97%、40~70代 70%
- 当時、キャノン、ニコンでシェア80%
- カメラ雑誌も重視せず、初めて買う人とのコミュニケーションを図る
- カタログに金髪の外人がモデルとして写っているが、初心者の人はまず撮らない
- 普段カメラを使っている宮崎あおいを起用
未来=夢
自分の夢、企業の夢、社会の夢
人生の企画(未来)