【天気の子】感想・考察|救われない世界で愛ができること(映画ネタバレ感想)
公開日:2019/10/29 更新日:2020/03/11「君の名は。」(2016年)が250.3億円の興行成績を叩き出し、一躍ヒットメーカーになった新海誠監督。
その新海誠監督の最新作「天気の子」。10月時点で観客動員数1,000万人を突破、興行収入も130億円を突破。
ネットでは賛否あるものの、周りの友達は「めっちゃよかった!」「『君の名は。』よりも好き」という声もあった。さすがの一言。ただ、いい映画なんだけど、テーマの重さと主人公たちの未熟さがマッチしてなくて、残酷だなと思った。
どのあたりが残酷だったか、映画「天気の子」のテーマや物語がどんなものだったか振り返りながら、感想や考察を書いていく。
目次【記事の内容】
「天気の子」の概要
2019年/日本 上映時間:114分
配給:東宝
監督・原作・脚本:新海誠
「天気の子」のキャスト
声優:醍醐虎汰朗、森七菜、本田翼、平泉成、倍賞千恵子、小栗旬
「天気の子」のあらすじ
「あの光の中に、行ってみたかった」
映画「天気の子」公式サイト
高1の夏。離島から家出し、東京にやってきた帆高。
しかし生活はすぐに困窮し、孤独な日々の果てにようやく見つけた仕事は、
怪しげなオカルト雑誌のライター業だった。
彼のこれからを示唆するかのように、連日降り続ける雨。
そんな中、雑踏ひしめく都会の片隅で、帆高は一人の少女に出会う。
ある事情を抱え、弟とふたりで明るくたくましく暮らすその少女・陽菜。
彼女には、不思議な能力があった。
「天気の子」のネタバレ感想
今回も予告編などほとんど情報を入れずに見に行ったが、素晴らしかった。
テーマや設定が悲哀を含んでいて、「君の名は。」とまったく違った結論になっている。
鑑賞後に清々しい気持ちには決してなれないのだが、それがかえって余韻のように残る。
ネットを見たり、友達の話を聞いていると、「君の名は」と比較したコメントが多かったが、比較すると良さがわからなくなるかもしれない。
「FF8:人間たちの愛の物語」と「FF10:人間たちの罪の物語ぐらいの違いがある。
テーマは「愛にできることはまだある」。
愛のために世界を犠牲にし、その罪と愛を背負い生きていくことを覚悟した青年たち。
物語を通じて届けられる若者へのメッセージ「愛にできることはまだある」「大丈夫」。
それは彼らの衝動や感性と相まって心打つものがある。
感想① 美しいビジュアルとユーモア
新海誠監督の代名詞とも言えるビジュアルワークは本当に美しかった。
先日NETFLIXで2017年に上映された「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」を見たが、場面場面でアニメーションというか画が雑になったりすることがあって見るに耐えないシーンがあったのだが、それが新海誠監督にはない。
徹頭徹尾、綺麗なのだ。
その素晴らしさは「ビジュアル」と「カメラワーク」の2つに分けられると思う。
・ビジュアル
空や虹は色鮮やかで、雨は生き物かのように躍動的。
「君の名は。」の彗星で見られたファンタジーさは今回天気をテーマにしたことで、さらに巧みに表現されていた。
雨が所々で塊になり、落ちてきたのは晴れにした代償としての雨だったのか。天空では龍のようにも描かれていた。
ところどころジブリのオマージュが見られた。雨は「崖の上のポニョ」、龍や陽菜が透けるシーンは「千と千尋の神隠し」と重なった。
・カメラワーク
花火の中をドローンのようにくぐるシーンは新しい視点で面白かった。他にも、花火大会を真っ正面から捉えたシーンや穂高と陽菜が空で浮かぶシーンなど、ダイナミックな構図が際立っていた。
・ユーモア
あと好きだったのが、ユーモアの部分。高井刑事のリーゼントが穂高を追っているときに揺れるのがたまらなかった。割と緊張したシーンだからこその弛緩が余計にたまらない。
感想② RADWIMPSの音楽
テーマや主人公の心情を歌詞に詰めて、音楽に映画を直接語らせる新海スタイルは今回も健在。
「君の名は。」ではノイズみたいに感じた部分も今回は一切なかった。人が感動して涙を流すのは音楽の力が大きいが、それを最大限活かしている。
今回RADWIMPSの野田さんがいくつか提案した内の1つ。女性ボーカルの三浦透子さん起用と楽曲「Grand Escape」は至極の組み合わせと出来。
透明感のある歌声と女性特有の包み込むような世界観。ストーリー、心情、天気などすべての要素が共鳴して、世界そのものの響きになっていた。
「大丈夫」の歌詞もそのシーンと相まって素晴らしかった。この歌詞が帆高の感情すべてを物語っている。
世界が君の小さな肩に乗っているのが
僕にだけは見えて泣き出しそうでいると
大丈夫ってさ 君が気づいてさ聞くから
大丈夫だよってあわてて言うけど
なんでそんなことを言うんだよ
崩れそうなのは君なのに
君の大丈夫になりたい
感想③ 感動ポイント
見ていて、鳥肌が立ったシーンは3回あった。
- 帆高が陽菜を助けに走り出すシーン
- 仲間が警察を食い止めて穂高を行かせるシーン
- 最後に穂高が坂道で考え事をしながら祈りを捧げている陽菜を見つけるシーン
先輩の「お前が姉ちゃんを奪ったんだ!取り返してこいよ!」で涙腺決壊。
感想④ 救われない世界と青年には重すぎる罪と無責任な「大丈夫」
感動はしたものの、終わったあとに振り返ってみるとやはり救われないな、と感じた。
それは東京(世界)の水没を引き起こし、その罪を背負ってしまった青年たちの物語だから。「君の名は。」と決定的に違う。
逆にその悲哀が好きな人もいるだろう。
世界を犠牲にしてでも大切な人、愛を守ったこと。そして何より、それがこれからの未来を担う青年たちによって成し遂げられたところに、現代の若者へのメッセージを感じる。
「大丈夫だよ」と。
ただ、その「大丈夫」があまりに無責任で投げっ放しだと感じた。私がつまらない大人になってしまったからだろうか。
感想⑤ 「天気の子」イヤー
2019年は「天気の子」のためにあった1年と言えるかもしれない。
「梅雨の長期化」、「大型台風の到来」、「天皇即位の儀での天気」など、荒天に見舞われることが多い年だった。それがより映画を象徴的に印象深くさせているようにも感じた。
新海監督持ってる。
「天気の子」の考察・疑問点
考察・疑問点① 「君の名は。」と「天気の子」の物語の違い
「君の名は」:世界は救われた、2人だけが名前を思い出せずすれ違い続ける
「天気の子」:世界は救われない、2人の関係は取り戻せるが一生背負い続ける
考察・疑問点② ダークな世界観
見終わった後にすがすがしくなれなかったのは、やはり背景や設定にあると思う。
- 陽菜は親がいなくて、弟と2人暮らし
- 年齢も詐称して中学生がバイト
- 帆高は実家に居場所がなくて家出をする
- おじさんも奥さんを亡くしている(あとで穂高との共通点になって人助けすることになる)
- 高校生が拳銃を使い、警察沙汰になる
- 中学生が風俗でお金を稼ごうとする
暗すぎる。
このあたり説明が不十分でよくわからないことが多い。
高1の男の子が離島から家出をして、東京で生活していくってかなりチャレンジングだと思うんだが…。
陽菜の環境も壮絶すぎるだろう。中学生が弟をバイトで養ってたら、児童相談所とかのお世話になる必要とか出てきそうだが。
とにもかくにもこういった設定とかは「はいはい、そういうことね」ぐらいで軽く流しておいて、エンターテイメント性を楽しむのが新海監督映画を見るお作法かと。
考察・疑問点③ 天と地で関係性を示唆
世界よりも愛を選択した帆高と陽菜が天空に行き、愛ではなく世界を選択した(=妻を失くしてしまった)須賀が地下の事務所にいる、という関係性を設定で描写したところはとてもよかった。
考察・疑問点④ Weathering with youの意味
Weatherは天気の意味だが、動詞にすると「(困難などを)切り抜ける、しのぐ」という意味もある。
まさに東京を水没させてしまった2人が、その罪を負うことを覚悟し、ともに切り抜けることを意味している。
考察・疑問点⑤ 「君の名は。」のキャラクター出演
瀧くんはお天気ビジネスの中でクライアントとなるおばあちゃんの孫として登場。苗字が違かったけど、三葉のおばあちゃんだったのかな。
三葉も帆高が陽菜へプレゼントを購入するシーンでルミネの店員役として登場。
「天気の子」の感想まとめ
「圧倒的に美しいビジュアル」
「世界そのもののような音楽」
「エモーショナルなシナリオ」
「重厚なテーマ」
「現実世界とのリンク」
といろいろな要素を壮大なエンターテイメントとしてまとめ上げた「天気の子」。
現実社会の厳しさに救われないとも感じるが、愛を信じて生きていくことに希望はまだある。そう感じさせる映画だった。
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